合法伐採木材等に関する情報:欧州連合(EU)
(2023年4月1日:追加情報更新)
注 国別情報については、令和元年度、令和4年度に実施した調査の成果等を、参考情報として掲載しています。
1.木材等の生産及び流通の状況
欧州連合(EU)の違法伐採対策は、FLEGT(Forest, Law, Enforcement, Governance and Trade)によって行われてきました。2003年5月に発表されたFLEGT行動計画では、合法木材の取引を推進する取組みとして、VPA(Voluntary, Partnership and Agreement)が打ち出されました。VPAは、EUと木材生産国の間の協定であり、合法性を証明された木材のみをEUに輸入するシステムを構築することを目的としており、具体的には、木材生産国においてTLAS(Timber Legality Assurance System)を開発・実施することを目指しています。
2013年3月には、EU木材規則が施行され、EU圏内で生産された、もしくは同圏内に輸入された違法伐採木材・木材製品を欧州市場に入れることを禁止し、違反した場合の罰則を設けるように加盟国に義務づけました。
2.EUの合法伐採木材等の流通・利用促進の取組
1)EU木材規則
EU木材規則(EU Timber Regulation: EUTR)は、欧州連合(EU)の違法伐採木材等の取引を規制する法律で、2013年3月3日に施行されました。同規則は、違法に伐採された木材の取引に対処するために、EU加盟28か国およびノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン(欧州経済領域:EEA)に適用される共通の政策フレームで、木材・木材製品を域内市場へ最初に出荷する事業者(Operator)の義務と、域内市場へ既に出荷されている木材または木材製品を域内市場で販売または購入する取引業者(Trader)の義務を定めています。具体的には、EU圏内で生産された、もしくは同圏内に輸入された違法伐採木材・木材製品を欧州市場に入れることを禁止し、違反した場合の罰則を設けるように加盟国に義務づけています。輸入事業者には、違法伐採木材が欧州市場に入るリスクを最小限にするための「デューデリジェンス」(Due Diligence)を行うことを求めています。
2022年12月末現在、EUTRは新たな規則に代替されることが決定しており、その新たな規則「森林減少防止に関する規則:Regulation on the making available on the Union market as well as export from the Union of certain commodities and products associated with deforestation and forest degradation and repealing Regulation(EU)No 995/2010」(EUDR)が議論されています。また、その過程で2021年11月にEUTRの適合性評価が実施されました。
事業者の義務は以下の三点です(EUTR第4条)。
- 違法伐採木材のEU域内市場への出荷禁止。
- 違法伐採木材が出荷されるリスクを最低限に抑えるために、体系的な手続きおよび措置の枠組(デューデリジェンスシステム、Due Diligence System: DDS)を用いて、しかるべき注意を払うこと。
- 使用するデューデリジェンスシステムを管理し、定期的に評価すること。
取引業者の義務は、サプライチェーン全体を通して「木材・木材製品を納入した事業者または取引業者」と「木材・木材製品の納入先となる取引業者」を特定し、前者についてその記録を最低5年間保存することです(EUTR第5条)。
デューデリジェンスシステムには、情報へのアクセス、リスク評価、リスク低減の3要素が含まれていなければなりません(EUTR第6条)。
表 デューデリジェンスシステムの要素(EUTR第6条)
要素 | 詳細 |
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木材製品そのものに関連した具体的な情報であり、その内容は以下を含む。
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(a)の情報および、以下の関連リスク評価基準(リスク評価に必要な一般情報)を考慮する。
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リスク低減の手法の例として、以下が挙げられている。
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EUTRが適用される木材・木材製品は合同関税品目分類番号(HSコード)とともに指定されています(EUTR付属書)。ただし、ライフサイクルを完了し、再利用されなければ廃棄物として処分される木材または木材製品から製造された木材製品またはその構成要素は例外とされます(EUTR第2条)。また、FLEGTライセンスまたはCITES(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)輸出許可証が適用されている製品は、合法的に伐採されたとみなされます(EUTR第3条)。
表 EUTRが適用される木材・木材製品(EUTR付属書)
HSコード | 主な品目 |
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4401 | 木質チップ |
4403 | 丸太 |
4406 | 枕木 |
4407 | 製材品 |
4408 | 単板 |
4409 | モールディング |
4410 | パーティクルボード |
4411 | ファイバーボード |
4412 | 合板 |
4413 00 00 | 改良木材 |
4414 00 | 木製の額縁 |
4415 | 木製容器、パレット |
4416 00 00 | 木製の樽、桶 |
4418 | 木製建具 |
47, 48(ただし竹製品および回収品は除く) | パルプおよび紙 |
9403 30, 9403 40, 9403 50 00, 9403 60, 9403 90 30 | 木製家具 |
9406 00 20 | プレハブ建築物 |
EU木材規則のデューデリジェンスシステムおよび監視団体の検査の頻度と性質についての詳細規則に関する欧州委員会実施規則:Commission Delegated Regulation (EU) No 363/2012 of 23 February 2012 on the procedural rules for the recognition and withdrawal of recognition of monitoring organisations as provided for in Regulation (EU) No 995/2010 of the European Parliament and of the Council laying down the obligations of operators who place timber and timber products on the market〔外部リンク〕
欧州委員会通知 EUに輸入されたCITES掲載種の木材の合法性に疑問がある場合にEU加盟国が取るべき措置に関するガイダンス文書:Commission notice ― Guidance document on steps to be taken by EU Member States in the case of doubts as to the legality of timber from CITES-listed species imported into the EU〔外部リンク〕
(エ)FLEGT/EUTR Expert GroupのEUTRに関するガイダンス文書
(EU木材規則および森林法の施行・ガバナンス・貿易に関する欧州委員会専門家グループにおいて、加盟国の管轄官庁および欧州委員会環境総局によって作成された文書であり、本書で表明されている見解は、いかなる場合でも、欧州委員会の公式見解とはみなされないことに留意)
リサイクル木材・木材製品に関するガイダンス文書:Guidance document -Recycled timber and timber products〔外部リンク〕
根拠のある懸念に関するガイダンス文書:Guidance document - Substantiated Concerns〔外部リンク〕
リスク低減措置に関するガイダンス文書:Guidance document - Risk Mitigation measures〔外部リンク〕
デューデリジェンスシステムにおける武力紛争の蔓延および制裁の考慮に関するガイダンス文書:Guidance document for the EU timber regulation: Consideration of prevalence of armed conflict and sanctions in due diligence systems〔外部リンク〕
デューデリジェンスに関するガイダンス文書:Guidance document - Due Diligence〔外部リンク〕
(オ)世界の森林保護と回復に関する専門家グループのEUTRに関するガイダンス文書
(EU木材規則および森林法の施行・ガバナンス・貿易に関する欧州委員会専門家グループが改名された。加盟国の管轄官庁等によって作成された文書であり、本書で表明されている見解は、いかなる場合でも、欧州委員会の公式見解とはみなされないことに留意)
ブラジルからの木材輸入に関する専門家グループの結論:Conclusions of the Competent Authorities for the implementation of the European Timber Regulation (EUTR) on the application of Articles 4(2) and 6 of the EUTR to timber imports from Brazil〔外部リンク〕 (PDF : 281KB)
ミャンマーからの木材輸入に関する専門家グループの結論:Conclusions of the Competent Authorities for the implementation of the European Timber Regulation (EUTR) on the application of Articles 4(2) and 6 of the EUTR to timber imports from Myanmar〔外部リンク〕 (PDF : 536KB)
ウクライナからの木材輸入に関する専門家グループの結論:Conclusions of the Competent Authorities for the implementation of the European Timber Regulation (EUTR) on the application of Articles 4(2) and 6 of the EUTR to timber imports from Ukraine〔外部リンク〕 (PDF : 340KB)
EU加盟国はEUTRに基づき国内体制を整備し、実施しています。
注 平成31年度林野庁「クリーンウッド」利用推進事業のうち追加的措置の先進事例収集事業において、ドイツ・オランダ・イギリス・スウェーデン・フィンランドにおけるEUTRの実施について、政府(管轄官庁)担当者に聞き取り調査を実施
表 調査対象5ヵ国のEUTR関連国内法と管轄官庁
国名 | EUTR関連の国内法 | 管轄官庁 |
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ドイツ | 違法に伐採された木材の商取引を防止するための法律(木材流通―保安法:Bundesgesetz gegen den Handel des illegal geschlagenen Holzes, HolzSiG) 木材流通―保安法に関する一般行政規則(Allgemeine Verwaltungsvorschrift zum Holzhandels-Sicherungs-Gesetz, HolzSiGVwV) |
輸入材:ドイツ連邦農業食料機関 国産材:各連邦州で定める |
オランダ | EUTRを実施する決定(Besluit uitvoering Europese houtverordening(Decision 671 (2012) of December 2012)) | オランダ食料消費者製品安全局 |
イギリス | 木材及び木材製品(市場投入)規則2013(Timber and Timber Products (Placing on the Market) Regulation 2013) | 英国製品安全・基準局 |
フィンランド | 木材及び木材製品の市場への投入に関する法律(Valtioneuvoston asetus geodeettisesta laitoksesta annetun valtioneuvoston asetuksen muuttamisesta) |
フィンランド食料庁 |
スウェーデン | 木材・木材製品の貿易に関する法律(Lag (2014: 1009) om handel med timmer och trvaror) |
スウェーデン林野庁 |
報告書(関連部分抜粋)(令和2年3月)
- ドイツ(PDF : 1,451KB)
- イギリス(PDF : 1,758KB)
- オランダ(PDF : 1,040KB)
- フィンランド(PDF : 1,363KB)
- スウェーデン(PDF : 1,141KB)
EUの木材を取扱う企業は、EUTRで要求される義務を果たすため、デューデリジェンスシステムを実施しています。
注 平成31年度林野庁「クリーンウッド」利用推進事業のうち追加的措置の先進事例収集事業において、ドイツ・オランダ・イギリス・スウェーデン・フィンランドにおける民間企業のEUTRに対する取組について聞き取り調査を実施
報告書(関連部分抜粋)(令和2年3月)
- ドイツ(PDF : 1,990KB)
- イギリス(PDF : 1,678KB)
- オランダ(PDF : 1,589KB)
- フィンランド(PDF : 1,737KB)
- スウェーデン(PDF : 1,720KB)
2)EUTRからEUDRへのステップアップ
2022年12月現在、EUTRは新たな規則に代替されることが決定しており、「森林減少防止に関する規則Regulation on the making available on the Union market as well as export from the Union of certain commodities and products associated with deforestation and forest degradation and repealing Regulation(EU)No 995/2010」(EUDR)が議論されています。
2021年11月EUTRとFLEGT(Forest Law Enforcement, Governance and Trade)規則の適合性評価(fitness check)が実施されました。「EUTRとFLEGT規制の全体的な成果を確実に定量化することは困難であり、両規制が世界の違法伐採にどの程度大きな影響を与えたかを結論づけることは難しい。」としながらも、「EUTRのようなデュー・デリジェンスに基づく規制は、他の政治的文脈においても、改良され適応されれば、目的に適うものになる可能性がある」としています。また、デュー・デリジェンスについては、「デュー・デリジェンスの要件は、森林所有者から国際企業まで、事業者の規模や実施する活動に関係なく実施することが可能である」としながらも、「デュー・デリジェンスの概念に対する共通理解は限定的」とも述べており、EUTRのデュー・デリジェンスには追加的なツールが必要かもしれないとしています。
欧州委員会は、EUTRの適合性評価を踏まえ、2021年11月にEUDR案を発表しました。その後、欧州委員会のEUDR案は、欧州議会とEU理事会でそれぞれ審議され、2022年12月6日に、欧州委員会は、「欧州議会とEU理事会がEUDR法案について暫定的な政治合意に達した」と発表し、「同規則が発効されると、事業者及び取引業者は18カ月以内に新規則を実施することになる。」と述べています。2022年12月末現在、最終的に合意された法案は公表されていません。
EUDRは、「世界の森林減少及び森林劣化に対するEUの寄与を最小化すること」と「温室効果ガス排出と世界の生物多様性損失に対するEUの寄与を削減する」ことを目的としています。EUTRが違法伐採木材・木材製品をEU市場に入れることを禁止しているのに対し、EUDRは、森林減少と劣化を伴って生産された、又は違法に生産された木材製品を含む農業関連産品をEU市場に入れること、とEUからの輸出を禁止しています。そして、そのリスクを最小限にするために、該当する事業者に対してデュー・デリジェンス実施義務を課しています。
EUTRの要求事項との違いの一つに、デュー・デリジェンスの情報収集において生産地の位置情報の収集が挙げられます。さらに、事業者はデュー・デリジェンス・ステートメントを作成し、情報システムを通じて管轄官庁に提出することが求められます。また、生産国のリスクを提示するカントリー・ベンチマーク・システム等のEUTRには見受けられなかった新たな制度も法案に含まれています。