愛媛県、愛媛大学、愛媛森林管理署が連携した天然更新技術の開発について(人工林の天然林化への試みに係る現地検討会の概要)
令和6年11月27日
愛媛森林管理署
〇愛媛県、愛媛大学、愛媛森林管理署の連携の必要性
降水量が多い四国は、スギ・ヒノキの適地であり、先人達の努力によって山頂まで植林されたスギ・ヒノキ人工林は良好な生育をしており、森林資源が充実している状況にあります。
他方、林業の担い手は減少しつつあり、これまでに造成した全ての国有林人工林を今後も維持していくことは難しく、林業に適さない条件の悪い林分は、人工林から元来の姿である広葉樹林に徐々に戻していくことを検討する必要があります。また、民有林では、森林経営管理制度が進められおり、手入れが不十分な人工林や放置された林分など林業経営に適さない森林は市長村が自ら管理することとなりますが、市町村には天然更新や広葉樹化のノウハウがなく、これら林分をどのように管理していけばよいか悩んでいる実態にあります。
以上のように、四国の国有林も民有林も天然更新や広葉樹化を進めていく必要がありますが、天然更新の可否を決める条件が十分に明らかになっていないのが現状です。そのため、愛媛森林管理署は、令和5年度及び令和6年度に愛媛大学農学部と共同で狼ケ城山国有林の天然更新状況を調査し、天然更新の可否条件を明らかにする取組を行いました。また、調査結果のとりまとめに当たり、75箇所(5年×15箇所)に及ぶ天然更新調査の実績があり、天然更新に関する多くの知見を有している愛媛県林業研究センターから指導・助言をいただきました。愛媛県林業研究センターの研究者は、「天然更新の可否を決める条件は複雑で多岐にわたっており、条件を特定することは非常に難しい」と指摘しています。そのため、天然更新の可否条件を明らかにするためには、条件の異なる林分で数多くの天然更新調査データを蓄積・分析することが欠かせません。愛媛大学の協力を得つつ、国有林(愛媛森林管理署)と民有林(愛媛県)が数多くの天然更新調査データを共有し、天然更新のノウハウを徐々に明らかにすることが必要です。
〇天然更新の可否条件を明らかにする現地検討会の開催
愛媛森林管理署は、令和6年11月12日(火曜日)、狼ケ城山国有林の天然更新の可否条件を議論するため、愛媛大学、愛媛県林業研究センター、愛媛県森林局、四国森林管理局らが参加する現地検討会を開催しました(参加人数:46名)。
〇天然更新調査対象地、天然更新調査等の概要
(ア) 調査地
狼ケ城山国有林43い1林小班(標高950~1,100m)
(イ) 調査地の履歴
令和元年度 誘導伐(帯状に立木を残存させた小面積皆伐)、枝条整理後、ヒノキ植栽、下刈
令和2年度 下刈
令和2~4年度 植栽木の半分がノウサギ被害により枯死。広葉樹の天然更新を確認。
令和5~6年度 愛媛大学と共同で天然更新調査を実施
(ウ) 調査結果
・高木性の広葉樹が7,986本/ha更新。
・更新した高木性広葉樹の79%が二次林種(明るい環境を利用して定着する種群のうち、比較的長命な樹種。萌芽能力が高い樹種が多い。)
・更新した広葉樹の71%が鳥散布型の樹種。一方、周辺の広葉樹林は風散布型であり、天然更新樹種と相違。「鳥散布型種子は、伐採跡地内のヒノキ残存木下とオープンな箇所では、ヒノキ残存木下で集中的に落下し、残存木のない伐採跡地(皆伐地)への散布量は少なくなる傾向がある」との文献(1994、樋口、肥後)があり、スギ・ヒノキが止まり木となり、伐採前に林内へ多数・多種の種子が散布されている可能性がある。また、鳥散布型樹種のうち、中木、低木に該当する樹種は先駆種(土壌中に長期間発芽力を失わずに生存するため、毎年の種子散布量が僅かであっても、人工林が成熟するまでに豊富な土壌シードバンクが形成されると予測できる(1950、小澤、2003、佐藤・酒井))であり、人工林皆伐後にこれらの先駆種が発芽している可能性がある。
・下刈を実施し(令和元年度、令和2年度)、ササを刈り払ったことで高木、中木の多くがササ高を超えて更新したと考えられる。天然更新を成功させるためには、ササを刈り払うなどの森林を形成するための遷移を開始させる状態にすることが重要と考えられる。
〇現地検討会における主な意見
現地検討会では、周辺に母樹となる広葉樹林の存在が天然更新の可否を決める条件となるのかどうかが議論となりました。愛媛大学や愛媛県林業研究センターの研究者の方々の意見は以下のとおりです。
【愛媛大学】
広葉樹が周辺になくても問題ないと考えている。ただ、数万haの人工林のような広葉樹林がない場合、天然更新は無理だと思うが、日本の森林は小規模でもどこかに広葉樹林が存在するため、天然更新を行う際、周辺に広葉樹林があるかどうかをあまり気にする必要はないと考えている。
【愛媛大学】
周辺に広葉樹がなくても更新は可能であるが、天然更新は必ずうまくいくわけではない。経過観察をすることが重要である。
【愛媛県林業研究センター】
愛媛県研究センターが行った分析では、広葉樹が斜面横・下側にある状況と広葉樹が斜面上部もしくは斜面全体にたくさんある状況を比較すると、天然更新の成功率が、斜面横・下側では、30%、広葉樹が多い場所では60%となっている。そのため、周辺広葉樹林の存在は天然更新に大きな影響を与えていると考えている。
〇愛媛森林管理署の今後の取組み
前述のとおり、天然更新の可否を決める条件は複雑で多岐にわたっており、条件を特定することは非常に難しいのが現状です。愛媛森林管理署は、今後も狼ケ城山国有林の天然更新調査対象地の調査を実施するとともに(10年後、20年後の遷移状況調査)、愛媛森林管理署管内人工林で天然更新が確認された林分を新たな調査対象地として選定・調査し、天然更新の可否を決める条件を明らかにしていきたいと考えております。引き続き、愛媛大学や愛媛県林業研究センターと連携して取り組んでまいります。
現地検討会資料(PDF : 2,926KB)
現地検討会資料(調査結果データ)(PDF : 1,851KB)
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調査結果の概要を説明している様子
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質疑応答の様子
お問合せ先
愛媛森林管理署
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