アベマキ材の活用、追っかけてみました!
「アベマキ」とは、中国地方等の里山で一般に見られる樹種で、火持ちがよいため薪などの燃料として重宝されてきました。
一方で、木材としては重く、硬く、使いづらいと思われていて、木製品としての活用はあまりされていないのが現状です。
そこで、アベマキの木製品としての利用価値を探るべく、国有林のアベマキ丸太を購入された業者様にご協力いただき、追いかけ取材してみました!
果たしてアベマキ材はどんな製品に生まれ変わるのでしょうか?
ご協力いただいたのは・・・
たむろ木材カンパニー株式会社代表取締役田室名保美様
令和3年1月13日(株)津山綜合木材市場新見支店で行われた初市で、国有林材アベマキ丸太を2本ご購入。
(末口26cm、30cm材長3m)
市場では、「樹種は限定せず、目が詰まっている良材で、ヒノキとコントラストになるような色の面白いものを中心に選びました」とのこと。
1.丸太の製材(令和3年1月下旬~2月中旬)
初市から約一週間後。丸太が市場から製材所へ直送され、いよいよ製材が始まります!
丸太の製材を実施されたのは・・・大林製材株式会社(広島市安佐北区大林1丁目16-40)
令和元年8月に90周年を迎えた、広島県では数少ない広葉樹も挽ける製材所。原木は自ら調達するだけでなく、たむろ木材カンパニーさんのように顧客自ら持ち込まれることも多いのだとか。
「当社では、高い製材・加工技術があるのが売り。」と、荒谷代表取締役。
こちらの製材所では、すべて機械任せで作業するのではなく、木ごとの⾧さ・曲がりといった個性にあわせ、使えるところを無駄なく製材しています。
工場長の山本さんによれば、「長すぎる材は製材しにくいですが、曲がり材は製材できます。広葉樹も針葉樹も製材の技術的には変わらないと感じています。」
アベマキは非常に硬い材のため、想定よりも製材に時間が掛かる様子。
大林製材さんの『良いものをじっくり出す』という経営理念のもと大切に製材されたアベマキは、無事28~33mm幅の板材になりました!
2.乾燥(令和3年2月下旬~)
木材は利用する前に十分に乾燥させておけば、割れや反りを防ぐことができます。
製材後のアベマキも、田室木材(株)保有の天然乾燥場へと運ばれました。
田室木材(株)・田室代表取締役は「アベマキだと1~2年の天然乾燥、さらに人工乾燥させて含水率を9~10%まで下げるのが理想的。」とおっしゃいます。
また、アベマキは水に弱く、日に当たると割れやすい・狂いやすいといった性質から、自然乾燥時は日に当てない・雨にあたらないようにするといった工夫が必要だということも教わりました。
製品として活用される日を夢見ながら、アベマキさん、しばしお休みなさい...zzz
3.板材の製材・加工(令和3年11月上旬)
乾燥開始から約8ヶ月・・・遂にアベマキ製品化へ向けての動きが出てきたようです。
まずは、乾燥場から田室木材(株)へ搬送され、板材の製材・加工が行われました。
丸鋸を使って大体の横幅を調整したら、ここからが職人の腕の見せどころ。加工機を駆使して曲がりの補正や細かい寸法調整をしていきます。
板材の様子を1枚1枚ていねいに見て、触って。確かめながら作業を進めていくと・・・
表面にざらつきがなくなり、アベマキ特有の赤っぽく美しい杢目(もくめ)が出てきました!
板材の乾燥、製材、加工を実施されたのは・・・田室木材(株)(広島県広島市東区上大須賀町14-21)
代表取締役の田室俊治さんはたむろ木材カンパニー(株)田室名保美さんのご主人で、丸太の見立ても専門。田室名保美さんは「材木屋が近くにいて、よい材が良心的な価格で手に入るのは大きな強み」とおっしゃいます。
製材所では針葉樹・広葉樹ともに扱っています。針葉樹との違いについて田室木材(株)の田室代表取締役は「(針葉樹は)乾燥中にカビ等が生えると中まで青くなりますが、広葉樹は表面だけだから加工すればキレイになるのが特徴」とのこと。
また、加工に用いる刃には丈夫な超硬(ちょうこう)のものを使うことで、硬い広葉樹も綺麗に加工できるのだそう。
4.製品への加工・組立(令和3年11月上旬~中旬)
さて、アベマキ製品化への道もラストスパート。
加工したアベマキが、職人の(有)IPM・伊藤会長のもとへ運ばれて、製品への加工・組立が行われます。
製品のアイデアはたむろ木材カンパニー(株)田室代表取締役が提案し、ラフスケッチまでを作成します。
そのスケッチを基に、伊藤会長がmm単位の設計図を書き、厚紙等で型を作ってから、木材を加工します。
見学の際には、初心者の私たちも簡単な作業を少し手伝わせていただきました。
木材に穴を開けたり、ボンドで貼り付けたり、圧縮したり。
簡単なように聞こえるかもしれませんが、伊藤会長は「棚一つ作るのにも、設計図どおりにならないと扉が閉まらなくなったりする難しさがある」と語ります。
また、「焦ると良い物ができない」とのことで、接着・圧縮は3日は掛けたいのが本音だそう。
ここには、大林製材さんの『良いものをじっくりと』の経営理念にも通じるところがありますね。
難しく細かい作業は伊藤会長にお任せして・・・遂に、製品の完成です!
製品への加工・組立を請け負ったのは・・・
(有)IPM(広島市安佐北区深川2-20-11)伊藤会長
もともとは樹脂加工の専門家。木工は趣味でしたが、たむろ木材カンパニーさんとおもちゃ等の製品を作るため、社長引退を機に木工専用の工房を立ち上げたのだとか。
お二人が手がけた「ミシン・アイロンセット」や「ペンギンのわなげ」は、2019年と2020年にウッドデザイン賞も受賞しています。
5.製品の完成(令和3年11月中旬)
お待たせしました。
いよいよ、アベマキ丸太2本から完成した2種類の製品のお披露目です!
写真右側・矢印で示した黄色っぽい棚はクワで作っているのですが、比べてみるとアベマキの方が赤っぽいことが分かります。
また、アベマキについては特有の「重さ」が重厚感を引き出していて、出来上がったものを見て思わず「ほしい!」と叫んでしまいました!
里山には多種多様な広葉樹が生えているのも特徴であり、この樹種の違いを活用すれば、色や雰囲気の違いを楽しむ製品も作れる、という良さを発見することができました。
6.あとがき ~アベマキ材の活用を追っかけてみて~
製材としての利用があまりされていないアベマキですが、美しい杢目や色の面白さを生かせば、こんなにも素敵な製品になれるのだと知ることができました。
一方で、アベマキの硬さや重さが理由で加工に手間がかかったり、割れやすい性質があるのも事実。
そんな樹種のもつ「クセ」ととことん向き合って、製材する人、製品化のアイデアマン、そして製品を作る人が協力し、愛情込めて製品が作り上げられていくのだと知ることができました。
放置されつつある日本の里山には、アベマキのような「実は付加価値の高い材」がたくさん眠っているのかもしれませんね。
ここまでの取材を一枚にまとめたものがこちら(PDF : 560KB)。
このチラシは、令和4年1月13日に(株)津山綜合木材市場新見支店で行われた初市においても、配布及び掲示させていただきました。
お問合せ先
森林整備部技術普及課
担当者:企画官(技術開発・普及)
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