屋久島の植物
屋久島の植物相は、暖温帯(海岸部は亜熱帯に近い)から冷温帯(山頂部は亜寒帯に近い)
までの幅広い温度環境に沿って、多様な植生の垂直分布が見られることが特徴です。
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(屋久島の植生の垂直分布図クリックすると拡大表示します)
連続する植生の中で、日本の森林では一般的に出現するブナ、トウヒ、シラベが欠落し、
その間隙を満たすように、スギ、モミ、ツガが埋めています。
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(屋久島の植生概念図クリックすると拡大表示します)
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屋久島の植物図鑑(標高別・生育場所別)
屋久島の代表的植物(サンプル)
このコーナーでは、屋久島の森林生態系保護地域、世界自然遺産地域に生育する植物や屋久島の固有種、北限種、南限種などについて、標高別または生育場所別に紹介します。
写真を見たいときは、下記標高別植物一覧表の種名をクリックして下さい。
使用した写真は、全て森林環境保全センターで保管する植物データベースから、掲載しています。(無断転載等禁止)
(総掲載種数、574種(標高別生育地をまたがる重複を除く)、うち写真付き掲載種、367種:平成23年10月6日現在)
種名、科名毎に見たいときは、『「屋久島の植物図鑑(アイウエオ順、科名検索)」=洋上アルプス掲載種のみ』をご覧下さい。
屋久島
屋久島の植生の特徴
屋久島は、南北に連なる琉球列島の北端、北琉球に位置し、九州の南端大隅半島の佐多岬から南およそ65kmの海上にあって、周囲130kmあまりの丸い形をした島です。ユーラシアプレートとフィリピン海プレートのぶつかる位置で何度かの氷河期には大陸との離合を繰り返したと考えられ、1千数百万年に及ぶ地史の経過(屋久島の花崗岩は1400万年前に形成されたとも言われています)があります。
さらに、緯度的に亜熱帯域に位置することや黒潮暖流が当たっていること、さらには地形的に新生代古第三紀の熊毛層群を貫いて隆起した花崗岩が島の中央部を占め、海抜0mから一気に1800m~1900mを超える山々が連なる急峻な地形から成り立っています。気候的には、年平均気温約20℃で年間を通して海からの水蒸気が山岳部に当たって雨となり年間降雨量も平均約4000mm、奥岳においては1万mm近くに達する温暖湿潤な気候となっています。
植生は、海岸部の亜熱帯に近い暖温帯から山頂部の亜寒帯に近い冷温帯までの幅広い温度環境に沿った多様な植生の垂直分布が顕著に見られます。花崗岩が成因となる土壌層は、植物にとっては貧栄養の厳しい条件となりますが、屋久島に樹齢数千年にもなるヤクスギが生育するのは、このような気象条件、土地条件が大きく影響していると言われています。
このような地理的、地史的特性、特異な地形、恵まれた気象条件から、生育する植生は、多様性に富み総数1900種以上にも及ぶと言われています。特に、固有植物78種、分布南限種200種以上、北限種も多数が確認されているところです。
今回、屋久島の植生について標高別、生育地別に下記一覧表にとりまとめ、特徴的な種について写真を掲載したのでお楽しみ下さい。
今後も写真の収集に努め、掲載種を拡充していく予定です。
なお、これら標高別、生育箇所別の分類は、主として(財)屋久島環境文化財団発行による「屋久島の植物」より引用整理し、また、南限、北限となる種に関しての記載は、「新版屋久島の植物」初島住彦監修南方新社などを参考にしました。
使用した標高区分 |
A.中山地~高地(標高500~1900m付近)登山道や林道の植物 |
B.低地~低山地(標高500m以下) 里から前岳周辺の植物 |
C.低地(標高100m以下) 里周辺の植物 |
D.海岸~低地(標高0~100m) 海岸に近い低地に生える植物 |
E.海岸(標高0~10m)海岸の岩屋砂地に生える植物 |
(注)区分表には記載がなくても、例えばB.低地~低山地(500m以下)にある植物は、それ以下の地域C、Dの区分に含まれる場合もある。
{(財)屋久島環境文化財団「屋久島の植物」平成11年3月発行より引用)}
屋久島(種子島含む)に特徴付けられる植物について(上記標高区分別) |
A.中山地~高地(標高500~1900m付近 |
(ア)屋久島固有種(固有亜種、品種含む) アクシバモドキ、オオゴカヨウオウレン、シャクナンガンピ、ハナヤマツルリンドウ、ヒメウメバチソ |
(イ)屋久島南限種 |
(ウ)屋久島北限種
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B. 低地~低山地(標高500m以下) |
(ア)屋久島固有種 |
(イ)屋久島南限種 |
(ウ)屋久島北限種 アオバノキ、ウラジロエノキ、ハシカンボク、フトモモ、リュウキュウイチゴ、
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C. 低地(標高100m以下) |
(ア)屋久島固有種
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(イ)屋久島南限種
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(ウ)屋久島北限種 ウラジロエノキ、コンロンカ、ツルマオ、リュウキュウアオキ(ボチョウジ)
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D. 海岸~低地(標高0~100m) |
(ア)屋久島固有種
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(イ)屋久島南限種
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(ウ)屋久島北限種(九州南部以南含む) ウラジロエノキ、ウラジロフジウツギ、ガジュマル、コンロンカ、リュウキュウアオキ(ボチョウジ)
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E. 海岸(標高0~10m) |
(ア)屋久島固有種
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(イ)屋久島南限種
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(ウ)屋久島北限種 イソフサギ、イソマツ、オキナワチドリ、コゴメマンネングサ、シマセンブリ、ツキイゲ、 ハマタイゲキ、メヒルギ、リュウキュウコケリンドウ
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上記の標高区分の南限種、北限種の出現傾向を見ると、下記のように屋久島の植生が顕著な特徴を持っていることがわかります。
標高の高い山岳域であるAの区分には、日本本土の冷温帯地域に出現する種が、南限域として多く現れる傾向があります。
例えば、上記整理表の例に挙げた以外にもオオカメノキ、ヒメコイワカガミ、ナナカマド、マイヅルソウ、ヤクシマホツツジ、ヤクシマカラマツなど東北地方などの冷温帯地域の山地などに普通に見られる植生の種組成が、その分布域の南限として屋久島の高い標高区分に出現してきます。
一方、D~Eの海岸~低地での植生を見ると、亜熱帯域に出現する多くの種が、この地域を北限として多く現れる傾向があります。
これは、この地域の海岸地域及び海岸に近い低標高域が亜熱帯に近い気候となっていることから、沖縄等南西諸島などの亜熱帯地域で生育する種が出現し、表中の例に挙げたもの以外にもアコウ、クサトベラ、クワズイモ、パパイヤ、ハマユウ、ビロウ等に代表される亜熱帯性の植生が出現して、屋久島地域がこれらの種の北限域にあたるということがわかります。(アコウなどは、黒潮が直接当たる高知県室戸岬、島原半島海岸域などでもみられます。)
上記に示したように、屋久島の植生の多様さは、島が亜熱帯域に位置する緯度にあることと海岸域から高標高の山岳域を有しているという特異な環境の違いなどから反映しているものであり、植物生態的にも興味深く、他の地域には見られない特徴と言えるでしょう。
屋久島生育標高別植物一覧
【 参考文献等 】
1 屋久島の植物ガイド(総集編) (財)屋久島環境文化財団発行
植生の標高別区分は、上記を参考としました。
2 洋上アルプス(屋久島森林環境保全センター月刊機関誌)上記ガイド掲載種に洋上アルプス掲載種を追加。
3 新版屋久島の植物 初島住彦監修 南方新社
4 屋久島野生植物目録 濱田英昭著
5 屋久町郷土誌 第四巻 自然・歴史・民族 屋久町教育委員会
6 屋久島森林環境保全センター保有植物写真データベース
ここで掲載した写真は、全て森林生態系保全センター職員が撮り貯めたオリジナル写真のデータベースから採用しています。
(写真の無断使用を禁止します)
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